何が起きているのか──直接アクセスの静かな上昇
海外のサイト運営者やマーケティング代理店の間で、ここ数ヶ月「直接アクセス(ダイレクトトラフィック、URLの直接入力やブックマーク経由の訪問)が上昇し続けている」という報告が出ています。注目すべきは、この上昇がサイト側の施策変更によるものではないという点です。デザイン変更やキャンペーンを打ったわけでもないのに、直接アクセスだけが伸びているというのです。
あるサイト運営者は、自身が運営する教育系情報サイトについて具体的な観測を報告しています。直接アクセスの増加がピークを迎えた時期が、自サイトのコンテンツが主要なAIプラットフォームに引用(インデックス)された時期と一致していたというものです。これはあくまで一つのサイトの観測であり、統計的に確認された法則ではありませんが、時期の一致という具体的な根拠がある点は無視できません。
併せて押さえておきたいのが、AI Overview(Google検索結果に表示されるAIによる要約)の影響範囲です。AI Overviewは以前から情報系サイトのトラフィックに影響を与えてきた一方、ECサイトなど情報系以外のサイトにはあまり影響を与えていないという傾向が指摘されています。つまり「AIが答えを出してしまうことでサイト流入が減る」という現象は、コンテンツ・情報提供型のサイトで特に起きやすい構造だと考えられます。
なぜ重要なのか──「クリックされない引用」が生む新しい流入の形
ここで浮かび上がってくるのが一つの仮説です。サイトがChatGPTなどAIプラットフォームの回答・引用・レコメンドで多く取り上げられている場合、直接アクセスとブランド検索(サイト名・サービス名などでの検索)が増加する傾向があるという見方です。
背景にある行動モデルはこうです。ユーザーはAIの回答内に表示されたリンクをそのままクリックするのではなく、回答を読んで内容に納得したあと、ブラウザのアドレスバーにサイトのURLを直接入力したり、ブランド名でGoogle検索をかけたりして訪問する。つまりAI経由の流入は、従来の検索結果クリックのようにリファラー(参照元)が残る形では計測されず、「直接アクセス」や「ブランド検索」という指標の中に紛れ込んでしまう可能性がある、という仮説です。
この仮説自体はまだ検証段階であり、断定はできません。しかし、AI Overviewが情報系サイトのクリックを奪う一方で、AIに引用されたサイトの直接アクセスが伸びるという観測が実際に出てきていることを考えると、「AIに取り上げられることで、リンククリックを経由しない別ルートの流入が生まれている」という解釈には一定の合理性があります。従来のクリック計測だけでは、AI経由の影響を過小評価してしまう恐れがあるということです。
実際にこの見方を踏まえて動き始めている事業者もいます。あるマーケティング代理店は、AI関連の影響を考慮して、インプレッション数・直接アクセス・ブランド検索トラフィックをこれまでより重視する方針に切り替えたと報告しています。従来は「オーガニック検索からのクリック数」を主指標に置いていたところから、AIに引用されているかどうかを間接的に測る指標へと比重を移しているわけです。
日本で何をすべきか──今すぐ計測に組み込みたい3つの視点
現時点でこの仮説を鵜呑みにして戦略を組み替えるのは早計です。ただし、確度が低いなりにも根拠のある仮説として、日本のSEO/マーケ実務者が今から準備できることはあります。
- 直接アクセスの推移を月次で確認する。サイト施策を変えていないのに直接アクセスが伸びている(あるいは減っている)タイミングがあれば、それはAI引用の変化と連動している可能性がある一つのシグナルとして記録しておく価値があります。
- ブランド検索の増減を追跡する。自社名・サービス名での検索ボリュームやクリック数は、Search Console等で確認できます。AI経由での認知拡大が起きているなら、ここに現れやすいと考えられます。
- 自社サイトが情報提供型かEC・トランザクション型かを見極める。AI Overviewの影響は情報系サイトで強く出る傾向がある一方、EC等ではあまり影響が出ていないとされています。自社サイトがどちらの性質に近いかで、直接アクセスの変化を読む際の警戒度も変わってきます。
繰り返しになりますが、これは単一の観測と一つの仮説に基づく話であり、統計的に確立した法則ではありません。ただ、従来のクリック起点の指標だけでは見えない部分をAIが生み出し始めているという可能性は、無視せずに指標に組み込んでおく方が安全だと考えられます。
まとめ
直接アクセストラフィックが施策と無関係に上昇するという報告と、AI引用のタイミングと直接アクセスの増加が一致したという一つの観測から、「AIに引用されるほど直接アクセスとブランド検索が増える」という仮説が浮かび上がっています。確度はまだ高くありませんが、AI Overviewが情報系サイトに強く影響する一方でEC等には影響が薄いという構造を踏まえると、合理性のある見立てです。まずは直接アクセスとブランド検索を定期的に観測する体質を作ることが、AI検索時代の最初の一歩になります。